東海大学ブランディング事業計画の目的
近年、国内外で大規模な災害・環境変動が発生しており、その対応が社会的な急務となっている。
そうした中、2016年4月に熊本地震が発生し、本学の熊本校舎、阿蘇校舎を含む県内の各地が甚大な被害を受けた。また、本学の湘南校舎、伊勢原校舎、清水校舎のある神奈川県・静岡県でも地震に限らず豪雨、洪水、火山噴火等、大規模自然災害の発生・被害が懸念されている。このような背景により、全学的に、災害監視、安全・安心に対する意識が高まっている。
国は第5期科学技術基本計画で「災害情報をリアルタイムで共有し、利活用する仕組みの構築を推進する」としている。先の熊本地震では、SNS等のソーシャルメディアによる災害情報の収集・発信の有用性が再確認された。しかしながら、気象情報を提供する企業のアンケートによると、ソーシャルメディアを介して提供される災害情報の信憑性を疑問視する声もあり、その利活用には改善の余地がある。
本学は、1974年に情報技術センターを設置し、地球観測衛星データを用いた災害・環境監視にいち早く取り組んできた。1986年には大学初の衛星データ受信局として宇宙情報センターを設置し、各種地球観測衛星の受信処理を行い、国内外の様々な研究機関と多くの共同研究実績があり、常に同分野で国内をリードしてきた。また、建学以来、大学で生まれた「知」を社会に還元することを理念としてきた本学では、総合大学の強みを活かし、産官学連携による研究活動を組織的に推進しイノベーションの創出に大きく貢献する「研究の峰」の構築を全学的に進めている。この「研究の峰」の1ユニットとして、安全安心社会創生のための研究拠点形成を目指す取組み(安全・安心プロジェクト)を2015年度より開始している。このプロジェクトでは、地震予知や火山モニタリング、津波の浸水シミュレーション、ソーシャルメディアの減災応用、耐災害通信などの研究で大きな成果を上げている。
本事業では、これら衛星観測等によるグローバルな情報と、地域住民等からソーシャルメディアを介して発信されるローカルな情報等を有機的に結び付け、災害・環境変動監視を目的としたグローカル・モニタリング・システムの構築を柱とする。さらに、総合大学の利点を活かした社会科学面の分析も加え、国内外に向け広く発信する。被災者や近隣自治体の意見のほか、熊本地震で甚大な被害を受けた本学の経験を加味し、災害時真に必要とされる新たなシステムとし、これを基に“社会の安全・安心に寄与する東海大学”のブランディングを図るものである。
参画組織
情報技術センター、情報理工学部、情報通信学部、理学部、工学部、海洋学部、基盤工学部、医学部
代表 東海大学湘南キャンパス
〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1
電話:0463-58-1211
期待される主な研究成果
以下❶・❷の成果を、❸にて有機的に結合させる。
NASA等の衛星データを本学と海外の大学(台湾中央大学やフィリピン大学等)でそれぞれ受信・即時共有することで、広域な海氷分布・火山監視等を実現する。また、中国科学院と協力し、北京など大都市周辺で発生した大気汚染物質が東アジア領域にどのように拡散するかを検証する。データ解析では、本学の各学部に分散する海氷、海洋、火山、大気等様々な分野の専門家の力を結集し、学内的な交流を高めつつ学際的な研究に取り組む。衛星データの即時配信技術に各分野の専門家による分析技術を加味することにより、衛星データの高度利用を推進する。
ユーザが様々な情報を投稿するツイッター等のソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)をセンサと捉え、その投稿された内容から抽出された情報をセンサの出力とみなす考え方を”ソーシャルセンサ”と呼び、近年特に災害時における情報収集・分析への利活用の観点で大きな注目が集まっている。迅速に被災地の被害情報の詳細を収集するためには、SNSの活用が不可欠であるからである。一方で、このような大規模災害時にソーシャルセンサの情報量は爆発的に増大するため、有益な情報の多くが活用されずに埋もれてしまう状況が生じている。そこで、このような災害時ソーシャルビッグデータをAI技術によりリアルタイムに分析して有益な情報を自動的に抽出・分類し、被災者の避難や安全確保のための行動、自治体の災害対応の意思決定支援などに利活用されやすい形に可視化して提供・配信する仕組みを構築する。災害時には通信インフラの途絶も想定されるため、インフラレス通信などの耐災害通信技術の研究・開発にも併せて取り組む。また、地域住民との交流や被災者のケアについても社会科学系、医学系の専門家を動員し、多角的に地域住民の安全・安心への貢献を図る。さらに、構築したシステムを利用した各種訓練、ワークショップの実施により、研究成果の具体的な社会展開を実現する。
最終的には、衛星を利用したグローバルな監視システムとソーシャルセンサからの情報を活用したローカルな監視システムを統合し、大学の独自色の強いグローカルな監視システムを具体的に構築する。例えば、地域住民がスマートフォンで自分の被災状況を発信すると、監視システムの衛星画像上にその位置や被災状況が表示されると共に、自動的に周辺地域の衛星画像が切り出され、その住民のスマートフォン上に時系列で表示されるような仕組みを実現する。こうした仕組みを内外の関係機関と連携して実現させ、国際社会および地域社会の安全・安心に寄与する。
次に示す評価に応じて翌年度の研究計画を再構成するPDCAサイクルを構築する。なお、評価結果は大学が設置する本事業用特設Webサイトで公開する。
本事業は、学内の部局・研究所等の研究活動や、戦略的および重点的に取り組む研究を支援する東海大学総合研究機構のプロジェクト研究に指定されている。指定された課題は、進捗状況(論文投稿数や学会発表数、マスコミでの研究成果の公開数など)や予算執行の適切性、社会連携活動の状況などの報告を、年次毎に書面・口頭にて学長を委員長とした総合研究機構運営委員会に行い、評価を受けることとなっている。
国内外の大学・研究所企業等の有識者や、本事業による成果の活用を目指す団体・自治体等からの意見を、各種イベントなどを通じ聴取する。得られた評価は年次の東海大学総合研究機構運営員会への報告内容に加味することで、外部評価を取り入れたPDCAサイクルとなる。